1994年の2月9日、日本の最高裁判事に高橋久子(1927〜2013)が就任しました。日本の最高裁判事では初の女性です。
高橋久子さんとは
東京大経済学部卒、1953年に旧労働省に入省した国家公務員でした。婦人少年局長などを経て82年に退官していました。

画像出所:47NEWS(アーカイブ)http://img.47news.jp/PN/201312/PN2013122401002938.-.-.CI0003.jpg
15人の最高裁判事のうち14人は内閣が任命します(長官のみ内閣が指名し天皇が任命)。最高裁の裁判官になれるのは「人格が高潔で法律の素養のある40歳以上の者」(定年は70歳)。うち少なくとも10人は裁判官、検察官、弁護士、法律学の教授・准教授に一定期間就いた人から選びます。
当時は細川内閣で、女性閣僚が3人いました。細川護煕首相は「大きなプレゼント」とコメント。高橋は「『女性初』がニュースにならない時代が早くきてほしい」と話しました。
最高裁での仕事
1997年9月21日に退官するまでの3年半で、高橋久子判事が関わった主な裁判には以下のようなものがあります。
| 年 | 事件名(略称) | 概要 | 高橋久子判事の関わり |
| 1995 | 1993年衆院選の議員定数訴訟 | 小選挙区比例代表並立制導入後最初の衆院選(最大格差約2.82倍)の「一票の格差」違憲性が争われた。合憲判断 | 裁判長を務め、違憲とする反対意見を述べた(ソース) |
| 1995 | ロッキード事件上告審 | 戦後最大の汚職事件とされたロッキード事件について、刑事責任(収賄など)が確定した最高裁判決群の一つ | 合議体の一員として参画(ソース) |
| 1995 | 婚外子相続差別訴訟 | 婚外子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定が、憲法14条の平等原則に反するかが争われた。合憲判断 | 合議体メンバーとして審理・判断に関与(2013年、大法廷が違憲判断) |
| 1996 | 沖縄代理署名訴訟 | 国の関与と地方自治体の長の権限(代理署名を国が行えるか)など、地方自治と国の関与の限界が争われた。上告棄却 | 合議体の一員として判決に関与 |
| 1997 | 愛媛県靖国神社玉串料訴訟 | 県知事が靖国神社・護国神社に玉串料・供物料を公金から支出したことが、憲法20条・89条の政教分離原則に反するかが争われた。違憲判断 | 大法廷判決に参加し、多数意見に賛同しつつ独自意見(意見・補足意見)を付した |
退官後の主な役職・活動
- 婦人少年協会会長
女性や少年の福祉・労働環境の改善に取り組む - アジア女性交流・研究フォーラム理事長
アジア地域の女性の地位向上や交流・調査研究を行う団体代表として、国際的な女性政策・交流を推進 - 21世紀職業財団会長
雇用における男女平等・ハラスメント防止などをテーマに活動する財団(現・産業雇用安定センターと別組織)で均等政策や職場環境の改善に関する啓発・支援
なお、女性初の裁判官は三淵嘉子(みぶち・よしこ)。2024年前期のNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」主人公のモデルです。
https://www.meiji.ac.jp/history/meidai_sanmyaku/thema/article/mkmht0000002myit.html
SNS投稿・広報への応用|「初の◯◯」を巡る広報
高橋氏の最高裁判事就任は、東大卒・旧労働省入省という”非法曹”キャリアからの抜擢で、当時の細川内閣が掲げた「多様性の可視化」を象徴する人事でした。ご本人は「『女性初』がニュースにならない時代を」と語りました。数十年が経過し、ニュースにならない時代にすでに入っている組織もありますね。下手に意気揚々と「当社では初の女性です」とアピールしたら「まだ女性が就任していなかったんだ……(遅れてる)」と受け取られかねません。
「初の◯◯」本人の二重の役割を理解する
高橋氏の発言「ニュースにならない時代を」は、トレイルブレイザー(先駆者)の矛盾を指摘しています。注目されることで道を拓くが、注目されること自体が未成熟の証明という意味です。
実務的には「初の女性役員」「初の外国籍幹部」が誕生したとき、メールタイトルやプレスリリースのタイトルに「初の◯◯」と書かざるを得ません。メディアは「初の◯◯」が大好きだからです。
だからこそ、広報として気を配るべきは次の点です。
① その人の実績を正当に評価する(属性で語らない)
② 次の候補者パイプラインを即座に構築する(孤立させない)
属性を全面に出しすぎると、何か失敗した時に「だから◯◯はダメなんだ」と批判する人が現れるのは目に見えています。実績があってこそ選ばれたのだと誰もが納得できる資料をきちんと提示しましょう。
また「初」であることが話題にならなくなるまでの期間を、組織の本気度を測る指標として扱うべきです。
「2人目の女性役員が誕生しました」
「珍しい出来事」として扱っており、女性役員があたかも特別枠のように映ります。新役員紹介の記事の中で自然に示しましょう。選抜プロセスの透明性をアピールするチャンスです。
「初の◯◯」公表後の90日が重要
就任後3カ月以内に実績を公表してみましょう。メディアも投資家も属性から実績へ視点を移します。
例
- 他の役員と同様に担当プロジェクトの進捗を報告
- 本人の専門分野での対外発信(寄稿や講演)を支援
- 新体制での成果として組織全体の数字を語る
逆に、何もしなければ永遠に象徴としての役割に固定され、実務者として評価される機会を失ってしまいます。
同時に、次世代候補者の育成制度を示すとより効果的です。
例
- 管理職登用の男女比率や国籍比率(5年推移)
- 社外取締役候補者プールの多様性指標
- メンター制度・スポンサーシップ制度の実績
IRだけでなく一般にも定期的に公表すれば、「初の◯◯」を起点とする組織の変革が理解されます。
普遍の教訓
「先例のない登用」は組織の覚悟を測る指標
最高裁判事に”初の女性”が選ばれた背景には、資格要件(制度)設計に余白があった点が重要です。「法曹10人+識見枠5人」という枠組みが、多様な経歴を許容していました。
あなたの会社では、経営幹部や理事会などのメンバー選抜基準に「異業種枠」「非伝統的キャリア枠」を明文化しているでしょうか。明示されていなくても、不文律で「ここの支社長は◯◯大学卒の人」「◯◯の資格保持者でなければダメ」などと慣例があったりしませんか。意思だけでは組織は動きません。
組織で「初の◯◯」が誕生したとき、その人の業績と、組織の“ガラスの天井”が破られた事実は別々に称賛・批判すべきです。前者は個人の能力、後者は集団の成熟度の問題だからです。
2人目・3人目の◯◯が「普通の人事」として扱われることが真のゴールでしょう。



