「私はITジャンルの記者のホットドッグ大食い世界選手権で優勝した」
そんな大会は存在しません。ところが、BBC記者が自身のブログに(意図的に)このようなうそ記事を書いたところ、次の日にはChatGPTやGoogleのAI検索が“事実”として引用し始めました。
出典は該当のうそ記事のみ。もしこれが、あなたの企業に関わる内容だったらどうでしょうか。悪ふざけでは済まないはずです。
企業は新たなリスク対策を迫られています。
記者による実験の意図
「私は地球上で最もホットドッグを食べられるテック記者だ」
BBCのIT担当記者、Thomas Germain氏は自分の個人サイトに「2026年サウスダコタ国際ホットドッグ選手権」という架空の大会結果を載せました。架空の記者名に、掲載許諾を得た実在の記者も織り交ぜたランキングも含めてわずか20分で書き上げました。
すると翌日には、ChatGPTやGoogleのAI検索が“偽ランキング”を引用し始めます。ジャーメイン記者はサイトに「これは冗談ではない」と追記すると、AIはより真剣に受け取め、権威ある結果であるかのように記述を始めました。
「BBCも、悠長な記事を書いているなあ」とお思いかもしれません。しかし、実験はAIが容易に騙されることを示すのが目的だったのです。
もしこれがあなたの企業についての情報で「商品がリコールされた」「食品に害虫が入っていた」「来期は赤字になる見通し」などのような偽情報だったら、どうでしょうか?
なぜ深刻なのか
AI回答は“第三者の評価”のように見える
従来のブログ記事や口コミと異なり、生成AIの文章は特定の発信者の主張には見えません。企業でも個人でもない、「中立の存在」が整理した情報のように提示されます。
虚偽情報であっても、企業名とともに断定的に示されると信頼に足る情報だと受け止められがちです。出典が一つしかなくても多くの人は気にしません。それよりも、きちんと意味のわかる文章として成立しているから大丈夫だと判断してしまうのです。
クリックされにくい構造
AI検索では、要約が検索結果の上部に表示されます。ユーザーはそこで満足してしまい、出典記事を読まずに離脱してしまう傾向があります(ゼロクリック)。
2025年のデータでは、Googleの検索結果ページ内だけでユーザーが離脱するケースは約58〜60%に達しているとの推計が複数の調査で出ています。つまり、検索全体の半数以上がリンクをクリックせずに終わっているのです。
その結果、内容を検証する機会が減ります。誤情報もそのまま記憶に残り「そういう会社らしい」という印象が固定化される可能性があります。
ニッチ検索が狙われやすい
「〇〇社 安全性」「〇〇社 違法性」「〇〇社 トラブル」といった限定的な検索は、情報量が少ないため“データボイド(情報の空白地帯)”が生じやすいです。
すると意図的に作られた記事や投稿が有力な情報源として扱われ、“空白”を埋めてしまう可能性があります。
検索数が少ないから安全なのではなく、検索数が少ないからこそ操作されやすいのです。
広報が今すぐ取るべき四つの対策
AI回答の定期監視
まず、どんな回答が生成されているのかを把握しましょう。
「安全性」「違法性」「トラブル」「評判」「リコール」などの重要キーワードを自社名と組み合わせてウェブ検索および生成AIの結果を人の目で確認します。定期的に確認するのが理想です。
Google アナリティクス4を使える場合は、探索レポートでセッションの参照元に「chat.openai.com」「gemini.google.com」「perplexity.ai」などを含むケースを抽出するといいでしょう。
また、Google サーチコンソールと組み合わせて、表示回数は増加しているのにCTRが急落しているケースは、AI要約表示などによるゼロクリックの可能性があります。平均掲載順位も同時に確認し、順位変動や競合状況も含めて総合的に確認しましょう。
一次情報の明文化
情報を空白にしないことが重要です。
- 安全性に関する説明
- 法令遵守体制
- FAQの充実
- 根拠データや第三者評価の公開
AIは構造化された、断定的で明確な情報を引用しやすい傾向があります。自社の公式情報として、しっかり説明しましょう。
情報の“量”より“質と構造”
単に記事を増やすことが対策ではありません。今ある記事や情報も、以下の観点で見直して改善しましょう。
- 見出し構造を整理する
- 重要事項は断定的に記述する
- 出典を明示する
読みやすい文章はAIに引用されやすくなります。
もしAIの誤回答を見つけたら
誤った回答が生成されていた際の手順を整理し、マニュアル化しておくと属人化を防げます。
- 検索結果や回答画面の証拠保存(キャプチャ)
- 修正すべき内容の検討
- 正しい情報を掲載
平時から手順を整えておくことが重要です。
まとめ 偽情報対策に先手を打つ
AIが情報の入り口になることが増えてきました。虚偽や悪意ある情報を典拠にさせないためには、自分たちで正しい情報を発信し、情報の空白を埋めていく必要があります。
自社について、生成AIはどのように語っているのか。一度、あなたの企業名で質問してみてくださいね。



