「AED」「SNS」「DX」など、外国語の頭文字などを使った略語を普段どれくらい見聞きしていますか?
2023年度版「国語に関する世論調査」(文化庁、9月29日発表)によると、こうした略語が用いられている状況を「好ましいと感じる(計)」人は45.1%、「好ましくないと感じる(計)」は54.3%で、年齢が上がるに従って「好ましくない」と感じる人の割合が多い結果となりました。
SNS(Social Networking Site/Service、交流サービス)はともかく、AED(Automated External Defibrillator、自動体外式除細動器)が通じないと命にかかわる場面もあります。改めて、大勢の人に読まれるかもしれない文章では略語をどう扱うか考えてみましょう。
略語の利用が「好ましい」と感じる人
「好ましい」(「好ましい」「どちらかというと好ましい」の合計)と答えた人は若いほど割合が高く、年齢が上がるにつれて低くなりました。まあ常識的に考えてそうでしょう。
「好ましい」と答えた人に理由を尋ねると、上位三つは「短く省略した方が使いやすいから」(77.9%)「社会で広く使われている言葉だから」(54.6%)「他の言葉ではその意味を表しにくいから」(40.2%)でした。「短く省略した方が使いやすいから」は30代以下が8割台。他の年齢層よりやや高かったのが興味深いです。
略語も含め、外来語が新語として人気を博すのはなぜでしょうか。全く新しい概念や固有名詞を取り入れる場合もありますが、それだけではありません。例えば「エモい」。エモーショナルなの意味で、平たく言えば「感動的な」「心を動かされる」といった意味です。
「おセンチ」なんて言葉もありました…
同じような意味の日本語があるのになぜ普及したのか。もともとあった言葉では表現しきれない意味が付加されたからでしょう。何度も使われるうちに、言葉を使った人の評価や偏見も加わります。「感傷的な」と「エモい」の字面を見比べた時、思い浮かべる感情や記憶は異なるのではないでしょうか。使い古された言葉では伝えきれない思いがあり、それが分かる人と出会いたい。若いほどその欲求は強いのでしょう。
略語は「意味が分かりにくい」
一方で「好ましくない」と答えた人が選んだ理由は「意味が分かりにくいから」(94.2%)が際立っており、年齢に関係なく9割台でした。次いで「見慣れない言葉だから」(31.1%)「漢字や仮名の言葉を使った方がいいから」(29.5%)などが挙がりました。
年代が上がるにつれ新しい言葉には抵抗感が強くなります。なぜなのでしょうか? 「ことばは新しい価値観や考え方を私たちに与えてくれるもの。社会に新しい価値観が入ってくるということは、既存の秩序が乱されるということでもある」(中村桃子・関東学院大教授)。新しい言葉は新しい価値観。新しい価値観は「今のままでいい」と考えている人にとって脅威になりえます。「今のままでいい」と思うのは、現状に満足しこれ以上は望まなくていいと考えている人。ある程度経験を重ね、成功している人。すなわちある程度は歳を重ねている人でしょう。
年齢を重ねるとともに自分自身の価値観ができ上がります。自分より若い人が何を感じているか理解するのは難しくなることが多いでしょう。あまり認めたくはありませんが。
新しい言葉が造られ、普及するのはそれを必要としている人がいるから。つまり社会が年とともに変化しているからで、若い人が新しい言葉を使いたがるのはごく普通のことなのです。
40代には「◯◯◯ばかり気にしている」と思われる
だから「60代以上が読みそうなら略語を使わなければ良い」と判断するのは早計です。略語使用が好ましくない理由について、40代の回答で2番目に多かったのは「見た目ばかり気にしているようだから」(29.6%)でした。他の年齢層では「漢字や仮名を使ったほうがいい」「見慣れない言葉だから」などが2位だったので、なぜなのか考察のしがいがありそうです。
2023年に40代といえば、1974〜83年に生まれた人々。まんま「就職氷河期世代」です。世代論には踏み込みませんが、不用意に略語を使いまくると、意味が通じないばかりか「見た目ばかり気にして中身を伴っていない人だ」と人格までマイナスの評価を受ける危険があるのです。
したがって、不特定多数の人に読まれる可能性がある文章では略語の使用をほどほどにした方が無難です。例えば「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」など初出はカタカナや日本語にして、2回目からは「DX」とするなど工夫してみましょう。
DXの日本語訳、はよ。
新語の発信源はテレビからスマホへ
アルファベットの略語が頻繁に使われ始めたのは高度成長期(1950年代後半〜70年代初頭)だと言われています。渡邉美代子氏によると、この時はテレビ番組とテレビコマーシャルが発信源でした。多くの人に買ってもらおうと、目新しさを出すために外来語や略語が使われるようになったのです(1)。
2000年代に入り、新語の発信源は徐々に変わっていきます。インターネット掲示板などで見知らぬ人同士のコミュニケーションが活発になり、それらをよく使う人同士だけが理解できる新語が造られます。「ggrks」「kwsk」などの言葉を覚えている人もいるでしょう。これらが流行したのはウェブサイトでした。
2010年代以降、スマートフォンとSNSの発達が新語の発達を劇的に変えたと感じています。スマートフォンで文字を入力するのは面倒なもの。なるべく少ないタップで言いたいことを伝えるために、予測変換と短縮語が発達しました。特にTikTokとYouTubeを通じ、ユーザーは言葉を瞬く間に使いこなします(動画のため、言葉を使う文脈が伝わりやすい)。そうして多数の新語が現れては消えていくようになりました。
私もプレスリリースで関わっている「SNS流行語ランキング」は、何度かテレビやYahoo!ニュースに取り上げられました。ヤフコメを読んでみると「若い人の言葉はよくわからん」と、おそらく年齢層が上の方の人たちが楽しんで(?)くださっている様子。「テレビに取り上げられたってことはもう古い」とのコメントもありました。新語の宿命です。
2023年の「SNS流行語ランキング」年間大賞がなんだったかは、以下のリンクからお確かめください´◡`
(1)引用元:渡邉美代子「コトバの意味問題 X ── 日本近現代における新語の造語法について ──」『高崎商科大学紀要』高崎商科大学メディアセンター 編 (35), 21-36, 2020