ニュースに間違いが…訂正・おわびが出るのはなぜ早い?

ニュース原稿に誤字や内容の誤りがあった際、訂正やおわびが出ることがあります。テレビやラジオの場合、番組が終わる前に「ただいまの放送内容に誤りがありました」とアナウンサーが訂正原稿を読むことも。こうした誤りは誰が見つけ、どうやって指摘し、訂正を出しているのでしょうか。

仕事で訂正・おわび文を書く必要がある方にも役立つ情報です。参考にしてくださいね。

目次

そもそもニュースが世に出るまで 

どんな仕事にもミスはつきもの。大事なのは後始末です。ましてやマスメディアの場合、視聴者・読者は不特定多数。もし間違えてしまったら、ニュースを見た・読んだ人に誤った情報を届けたことになります。さらに情報源となった人々に多大な迷惑をかけてしまいますし、下手をすると訴えられます。

このためマスメディアでは、ニュースが誤っていないか、公開する前に必ず複数の人で確認する体制を構築しています。

記者(ライター)→デスク(編集者)→校閲記者

もっと多くの人が関わることもありますが、基本は「書いた本人+別の2人」の3人。校閲記者というのは、表記の揺れや誤字脱字などを直す「校正」をはじめ、内容の真偽や表現に問題がないかなどをチェックする担当者です。新聞社や大手の出版社には専門の部署があり、流行語や新しい意味が付け加わった言葉などをどう扱うかといった方針を決めるのも仕事の一つです。石原さとみさん主演のドラマで少し注目されました。

毎日ことばplus
“リアル校閲ガール” 仕事を語る 2016年、石原さとみさんが主演するドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)が始まり、内外から「校閲」が注目されることとなりました。毎日新聞の...

ただ、規模の小さいメディアでは校閲はおろか校正にすら手数を割けません。また、テレビの速報などスピードが命のメディアでは、仕方なくライター→編集者の2人だけでチェックを終えることもしばしば。もちろん何度も読み返して間違いがないかどうか確認しますが、自分の書いた文の間違いを見つけるのは非常に難しいのです。ミスが起きる時はいくらチェックしても起きてしまうもの。校閲担当者がいようがいまいがそれは同じです。

ミスは誰が見つけるの? 

テレビやラジオのニュースの場合、スタジオにいる誰かが気づいてその場で間違いを知らせるケースもあるようです。一方、新聞や雑誌、ウェブの場合は「記事を読んだ誰か」で、中の人とは限りません。私が経験したケースでは、取材を受けた本人(組織の場合はその関係者)からの通報が多かった印象です。取材された側はいつ自分の記事が出るかと待っているわけですから、ミスを見つけるのも早いのです。

ミスの種類

ニュースの訂正にもいろいろあります。誤字脱字を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。原因は変換ミス、コピペミス、思い込みなど。「誤変換あるある」のようにクスっと笑えるものならいいのですが、固有名詞の間違いは最も避けたいミスです。おめでたい話題ならまだしも、例えば「逮捕された」とか「亡くなった」というニュースで名前を間違えた場合、別人が逮捕された、亡くなったことになってしまいます。最悪ですね。一刻も早く訂正し、関係者に謝罪する必要があるのです。

笑えないミスには、数字の間違いもあります。例えば「1000万円」を「1000円」にしてしまうもの。文字を書いたり削ったりしているうちに単位を消してしまったのかもしれません。電話番号やURL、メールアドレスの間違いなども起こります。

「訂正」と「訂正しておわび」の違い 

ミスを出してしまったあとは通称「わび訂」と呼ばれる作業が生じます。視聴者、読者に向け既報のニュースに誤りがあったことを公表することです。

お気づきの方もいるでしょう。これには「訂正」と「おわびして訂正」の2種類があります。メディアによって基準は違うかもしれませんが、私の経験してきた限りでの違いは以下の通りです。

訂正…誤りを正す。

訂正しておわび…誤りのために迷惑をかけた人たちに謝罪し、正しい情報に直す。

例えば「米国の首相」と書いてある記事が公開されたとします。米国政府に首相はいませんから明らかな誤りですが、これによって迷惑がかかった人はいない(と想定される)ので、このミスに対しては「訂正」が出ます。

一方、例えば「京セラの稲森和夫氏」のミスはどうでしょう。正しくは稲盛和夫氏(故人)です。私の同僚が誤記した実際のミスで、この時は京セラから連絡がありました。名前を間違えられるといい気はしないものですよね。ましてやトップの名前を間違えられては、企業の広報としても困ります。このケースでは「訂正しておわび」になりました。

ミスを出した後始末 

ここから先は、ミスをした際にマスメディアではどうしているかについての参考情報です。

Ayan

ミス発見の連絡を受けた記者の頭の中は真っ白になります。全校生徒の前で土下座しろと言われたくらいの心持ちです。しかし、灰になっている余裕はありません。

「何で間違えたのか」について顛末(てんまつ)書を提出します。

顛末書 

あーあの時「これでいいんだっけ?」と思ったけどスルーしたんだった……デスクから早くOK出せ締め切りに間に合わんぞと言われて焦ってた……でももう一度取材メモを見返す時間くらいあったな……途中で「もうこれであってるでしょ」って思って見るのやめちゃったんだよね……

後悔しながらミスを出した経緯を思い出し、時系列メモにします(この段階ではPCで書いている)。出来上がったら速やかに上司(原稿を見たデスク)に共有し、内容を確認してもらいます。

ここで大事なのは、他人のせいにしないこと。間違っても「デスクに早くOK出せと言われて焦った」などと書いてはいけません。自分の過失に真摯に向き合うことが、新たなミスを防ぐのです。デスクがまともな人なら、彼/彼女もまたミスを指摘できなかった責任を感じています。記者には記者の、デスクにはデスクの反省ポイントがあります。それぞれの過失を持ち寄り、それぞれに再発防止策を考えましょう。デスクが確認したら、顛末書となって上層部(部長・編集局長など)に提出されます。

始末書 

顛末が確認できたら、今度はそれに基づいて始末書を書きます。始末書は顛末、再発防止案のほか「ミスを出して申し訳ありませんでした」と謝罪の文も含める文書のことだそうです。私の勤めていた会社ではなぜか手書きで書く必要がありました。

何そのペナルティ感……。

Ayan

訂正を出す悪夢を今でも見るくらいです。

結果として「ミスもういや」と心に刻まれたので意味はありました。これも「真面目に反省している」ポーズを見せるために誰かが決めたルールだったのでしょう。今はさすがに手書きではないそうです。

私は編集者としてこれまでに2回始末書を書きました。また編集長を務めていた時は、ミスを出してしまった編集者に書いてもらったことも何度かあります。中には「ミスは起きるものと肝に銘じる」が再発防止策だと記載する人もいました。そうではなく、ミスの具体的な原因は何で、今後自分がどうすれば再発を防げるのかを書きましょう。「確認を怠らず、少しでも気になれば必ず取材メモを見返す」といった具合です。

謝罪 

誤報を出したことで迷惑をかけた先があるのなら、すぐにおわびをする必要があります。私の場合は、まずは電話をかけておわび、その次に取材先を直接訪ねて面前で謝りました。菓子折りを持って行ったこともあります。直接謝るのが最も良い方法です。

訂正を出さない場合 

多くの誤報と報道被害のケースを経て、今では割と頻繁に訂正やおわびを出すようになっています。ただ、間違っていても訂正が出ないケースもあります。例えば「訂正ががある」といった、誰にも迷惑をかけないタイポミス(typographical error、誤記)などです。

「コンピュータ」と「コンピューター」など、同一文書に複数の表記が混在する「表記揺れ」も気にはなりますが、語句として間違っているわけではないので訂正は出ません。とはいえ、メディアとして表記にルールがある場合は従いましょう。それが責任ある執筆者というものです

記事にミスがあった場合の文書例

顛末書のテンプレ

顛末書

○年○月○日

雲丹蔵泰造

○月○日○時○分に公開した記事「○○○○○○○○○」の本文にある商品名称に「○○○○○○○」とあるのは、「○○○○○○○○○」の誤りでした。

経緯

○日

○時○分 出稿完了

○時○分 デスクより打ち返し受領

○時○分 公開

○日

○時○分 株式会社○○○○より、当該記事で紹介された商品名称が間違っている旨の問い合わせ受電

○時○分 取材メモ確認、上記指摘の通りであると確認

原因

取材メモに「○○○○○○」と正しく記したのにも関わらず、「○○○○○○○○」であると思い込んだまま記事を執筆した。デスクからの打ち返しの際も取材メモを見返さず、間違った思い込みのまま修正原稿を読んだため、誤りに気づけなかった。

おわび訂正のテンプレ 

日頃より当サイトをご愛顧いただき誠にありがとうございます。

○月○日○時○分ごろ公開した記事「○○○○○○○○○」の中で、商品名に誤りがありました。正しくは「○○○○○○○○○」でした。

訂正しておわびいたします。関係者のみなさまには多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。

Ayan

間違えた固有名詞には言及しない方がいいこともあります。誤情報を再び世に出すことになるので。

サイトのどこに載せるか 

この事例のように商品名を間違えてしまったという場合、相手の企業はかなりの迷惑を被っています。中には自社サイトに「一部サイトでの商品名誤りについて」などと文書を載せなければならなくなるケースもあります。申し訳ないですね。

深刻であると判断した場合は、メディアサイトのトップページに「記事の誤りについて」などと誘導テキストを置き、上記のおわび訂正文に飛ばすよう事前に手順を決めておくといいでしょう。重大ミスが発覚すると、相手先への謝罪やスポンサーへの説明などの作業にいろいろな人が巻き込まれて、何がどこまで進んでいるのかわからなくなりがちです。普段から「重大ミス発覚時の運用」を決め、誰が何をするのか、情報をどこで集約するのかすぐに分かるようにしておきましょう。

おわびをいつまで出すか 

おわび訂正文もいつかは取り外します。「トップページからの誘導は1日たったら取り下げる」など期限をあらかじめ決めておきましょう。ことの深刻度に応じて期限を変えてもいいですが、今度は「深刻度をどう決めるか」と余計な仕事が増えてしまうので「最長で3日、通常は1日」などと決めれば十分です。

おわび訂正の文書を載せたページを削除するかどうかは各自のお好みです。一度公開してしまえばキャッシュで残りますし、誤りを出したこと自体は消せない事実ですからあえて削除する必要はないかもしれません。誘導だけ外す、非公開にしてページは残すなど、企業の方針に応じて決めましょう。ミスはそうそう起きない(ことを願います)ので、何年か経ってミスが再発した時に参照できるようにしておくのも一つの考え方です。

ニュースで訂正が出るのはなぜ早いかといえば、早く訂正しないと迷惑がかかるからです。そして、なるべく早く訂正できるよう事前に手順を決めてあるからです。ミスは誰でも犯すもの。起きた時は真摯に反省し、素早く訂正しておわびをしましょう。ミスをなるべく起こさない執筆スキルについてもお教えしていますので、気になったら相談してくださいね。

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