「お持ち帰りできます」は敬語じゃない!? 飲食店で使いがちな表現をおさらい

敬語に自信はありますか?

敬語を使うと相手に対する配慮を表せるだけでなく“きちんとした人”との印象も与えられます。しかし、日常で見聞きする会話表現には、よく考えるとおかしな敬語が含まれていることがあります。一度覚えてしまうと、なかなか修正する機会は訪れません。本記事では飲食店でよくある使われる表現を取り上げます。適切な敬語の使い方を確認しましょう。

目次

お持ち帰りできます

食事を容器に入れて持ち帰れる飲食店が増えました。メニューや店頭の張り紙などでよく見かけるこの言葉。

お持ち帰りできます

「持ち帰る」のはだれでしょうか? お客さまです。

「持ち帰る」は「だれかに対して何かをする」使い方はありません。いわゆる自動詞です。

本来、こうした動詞は「お〜できる」「ご〜する」などの形の謙譲語になりません。「(先生に)お見せする」「(クライアントに)ご説明する」など、何かをする対象に敬意を表すため、自分の動作について使うのが謙譲語(厳密には「謙譲語Ⅰ」)です。他に例を挙げます。

眠る→お眠りできる×
食べる→お食べできる×

これに対し、動作主への敬意を示すのに使う敬語を「尊敬語」といいます。「いらっしゃる」「召し上がる」「お眠りになる」などです。

「持ち帰る」お客さまに敬意を示したいなら尊敬語を使います。

お持ち帰りになれます

「お持ち帰り」を名詞だととらえれば以下も正解です。

お持ち帰りができます

お持ち帰りが可能です

また、「持ち帰りの注文をしてくれたら店側もうれしい」のニュアンスを込めるなら「お持ち帰りいただく」も正しい言い方です。今回の修正例では、「いただく」の可能の形「いただける」を使いました。「できる」と「いただける」の違いに留意してください。

このほか「ご参加できます」「ご乗車できます」などもよく見かけますが、それぞれ「ご参加になれます」「ご乗車になれます」が本来の尊敬語です。

ご注文は以上でお間違いないでしょうか

一通り注文を聞いたら、復唱するよう決めているお店もありますね。

ご注文は以上でお間違いないでしょうか

注文を間違えるのはたいていの場合、お店の側です。だから間違いのないように復唱するのですよね。

「お」や「ご」は相手側のものや行為につけて敬意を表すものなので、お店の人が自分の行為に「お間違い」というのは変です。

ご注文は以上で間違いないでしょうか

ご注文は以上で間違いございませんか

などとすれば、自分に敬語を使うことはなくなります。マニュアルに「お間違いないでしょうか」と書いている場合は訂正しておいてくださいね。

ご注文の品はおそろいになりましたか

一通り注文の品を運んでから、確認のために聞くことがありますね。

ご注文の品はおそろいになりましたか

「おそろいになる」は動詞「そろう」を「お~になる」で挟んだ尊敬語です。

尊敬語は動作の主体に対して敬意を払う表現です。例えば宴会の冒頭で「みなさん、おそろいになりましたか」と使います。動作の主体は「みなさん」。

しかし「ご注文の品はおそろいになりましたか」の場合、主語は「品」。店が提供するものに対して敬意を払うことになります。「(客の)ご注文」に引っ張られて尊敬語になってしまったのでしょうが、品をそろえるのは店側です。

「ご注文の品はおそろいでしょうか」はどうでしょうか。

「そろうこと」(名詞)を「おそろい」とするのは美化語です。服など同じ製品を2人以上が持っていることを「おそろい」と言いますね。

「ご注文の品」が「そろっている状態」にしたのは店側。したがって美化語はふさわしくないとする考え方もあります。

ご注文の品はそろっておりますでしょうか

今回の例では「そろっている」を「そろっております」と謙譲語にすれば、店側の動作や状態を低めるのでお客さまに対して失礼にはあたりません。謙譲語を使わず「そろいましたでしょうか」でも大丈夫でしょう。

本記事で紹介したような、敬語のようだけど実は敬語になっていない表現は2000年代前半「ファミコン敬語」「バイト敬語」などと呼ばれました。ファミレスやコンビニで働くアルバイト店員さんに使われることがあるための命名です。

言葉じりを捕まえてクレームをつける人もいる昨今。本来の言い方を身につけ、そつなく業務をこなしましょう。

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