2001年の2月10日、ハワイ沖で実習していた愛媛県立宇和島水産高校の「えひめ丸 」が米国の原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突されて沈没。9人が亡くなりました。
「本来業務の優先順位が崩れる」「気付いていても止められない」といった、どの組織でも起こり得る構造が背景にありました。
本記事ではえひめ丸事故を題材に、危機管理・意思決定・広報対応の観点から教訓と具体策を整理します。
事故の概要
現地時間で2月9日の午後1時43分(日本時間10日午前8時43分)、体験航海中の民間人を乗せた攻撃型原子力潜水艦(USS Greeneville)が急浮上。えひめ丸は船底を下から裂かれて5分後には沈没し、乗っていた35人のうち実習で乗っていた生徒4人、指導教官2人、乗組員3人が亡くなりました。

画像出所:Wikimedia
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Honolulu, Hawaii (Nov. 5, 2001) — U.S. Navy divers swim along Ehime Maru during recovery operations off the Honolulu coast. U.S. Navy Photo by Chief Photographer’s Mate Andrew McKaskle. (RELEASED)
生存者は「昼食後、バーンという音と同時に船尾が持ち上がりだした。何が起きたのかわからなかった。一瞬のことで実習生や仲間を助けられなかった」と証言しています。
グリーンビルでは「えひめ丸」に気付いていたにもかかわらず、操縦体験など民間人の対応に追われて事故につながったとされています。ワドル艦長は被害者の家族に直接謝罪。同年10月に退役しました。

画像出所:Wikimedia
By First uploaded to engl. Wikipedia at 07:49, 2 April 2004 by Minesweeper. – http://www.csp.navy.mil/, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=495922
発生時に休暇中でゴルフ場にいた森喜朗首相は、事故の一報を聞いたのちゴルフを続行したことが報じられて支持率が急落。他の原因もあり4月18日、首相辞任を表明しました。
https://www.jiji.com/jc/d4?p=myr085-jpp00867841&d=d4_pol
事故から学ぶ教訓
組織的には次の論点に分解できます。
本来の業務が疎かにされた
イベントやVIP対応などの業務で、安全・品質・法令順守など本来は最優先されるべき事項を疎かにすることはどこでも起き得ます。事故や炎上の素地となる危険性が潜んでいますね。
気づきが生かされない意思決定プロセス
言いにくい空気、異論が歓迎されない体制、判断の一極集中などに阻まれると、現場の誰かが違和感を持っていても生かされないで終わる可能性があります。
初動の遅れが2次被害を拡大する
危機発生時は、完全な情報より最優先で何をするかを示すことが信頼維持に直結します。「大丈夫だろう」ではなく、まず対応。何もなければ「何もなくてよかった」で済みます。
ビジネス現場で見られる事例
- ローンチ直前、障害兆候があるのに予定通りの公開が優先される
- 大口顧客の対応に引っ張られ、セキュリティレビューが省略される
- “空気”で意思決定が進み、反対意見があっても誰も言わない(出すと反感を買う空気)
止められない構造に優先順位の崩壊が加わると事故につながりやすくなります。
広報・SNS施策への展開案
初動は情報より姿勢を先に伝える
インシデント発生時に「事実がもっと明らかになってから発表する」と判断しがちですが、これは悪手。ユーザーにとっては沈黙に映り、「隠している」と解釈する人も現れます。
インシデントを覚知した際、以下のような配信をまずすると決めておくと便利です。
①発生覚知を知らせる
例「弊社サービスで障害が発生しており、ただいま詳細を確認中です」
②人命・安全・顧客影響を最優先に対応中であることを示す
例「お客さまへの影響を最優先に考慮し、関係部署が連携して対応しています」
③ 事実確認の範囲と次報予定を短く出す
例「担当地域の責任者が現場で対処中です。次回は30分後を目安に、判明した内容を追加してお知らせします」
また、トップの行動(優先順位・公表の基準・会見判断)を事前に決め、広報が運用台本を持っておくと安心です。
現場の声が上がらない組織は、広報が最後に苦しくなります
具体例
広報が「現場では前から懸念があった」事実を後から知ると、説明の整合性が崩れます。
打ち手
- 広報がリスク会議に同席(観測点を前に出す)
- “事故未満”のヒヤリハット共有ルートを整備
- 重大案件は「止められる連絡網」を明文化
広報部署だけで準備をするのは難しいのが実情だと思います。所属長や担当役員らと意思疎通する機会があれば、積極的に提案しましょう。危機意識のある上司なら、聴き入れるはずです。
まとめ
事故や炎上は「一度のミス」ではなく、「止められない構造」と「優先順位の崩れ」が重なった時に起きます。広報は発信担当である以前に、組織の意思決定を健全化する観測点として機能できます。



