2008年5月30日、日本航空(JAL)の“鶴丸”マークの機体が国際線で最後の運航を行いました。その後経営危機に陥り、2011年4月には会社更生法適用を申請します。再出発の象徴として“鶴丸”ロゴを復活させました。顧客からの要望も多かったといいます。
この投稿をThreadsでしたところ、短時間に多くの方から「いいね!」していただくとともに、添付画像の間違いを指摘してくださった方がいらっしゃいました。訂正投稿しました。ありがとうございます。
SNSのやりとりから、”鶴丸”が多くの人に愛されていると知ることができました。間違いを指摘してくださった方への感謝も込めて、改めて”鶴丸”ロゴとブランド・アイデンティティ、広報やSNS投稿への展開案をご紹介します。
🗓 こんな人におすすめの投稿ネタです
- SNSの投稿ネタが思いつかず、毎日「何の日」で探している広報・PR担当者
- 自社のストーリーやブランド資産を、どうやって投稿につなげればよいか悩んでいる方
- プレスリリースや周年企画で「原点」や「再出発」をテーマにしたい方
日本航空、ロゴの変遷
1951年に創業した日本航空。はじめは日の丸を背景にした飛行機をモチーフに「JAL」の文字をデザインした社章兼ブランドマークが使われていましたが、評判が良くなかったようです(デザインは上のJAL公式X投稿をご覧ください)。
神風特攻隊から「空の上のおもてなし」へ
国際線進出にあたり解説した米ニューヨークの営業所では、ひとめ見ただけで「日本」を想起してもらえるブランドマークを制作し始めます。主要路線は米国線のため、米国人(男性)を意識したデザインが検討されました。
太平洋戦争、神風特攻隊の記憶も生々しく、日本に対して良い感情を持っていない米国の顧客に選んでもらうには、イメージの転換が必須です。日航の依頼を受けたサンフランシスコの広告代理店BCG(Botsford,Constantine & Gardne)は、モチベーション研究で有名な心理学者アーネスト・ディヒター(Ernest Dichter、1907〜91)に調査を依頼しました。1953年7月末にディヒターが提出した報告書には、JALは「日本と東洋を売る使命がある(JAL does not only have the job, of course, of selling the flight, but also of selling Japan and the Orient.)」と書かれていたそうです[1]。

初めは家紋の一つとして
日本の本社でも国際線のポスターやパンフレットなどのデザインに着手し、グラフィックデザイナーの草分けとして活躍した永井郁が鶴を描き始めます。千羽鶴から着想したそうで[2]、1953年には羽ばたく鶴の描かれたポスターや「旅のしおり」(外国からの旅客を対象に、日本入国ビザや通貨などを説明したパンフレット)などが登場。1956年に制作された「しおり」のデザインは家紋をモチーフにしており、「結び井筒」「巴紋」などとともに「鶴の紋」が登場しました。これが好評で、デザインとして多く利用されるようになります。
1958年、日航がジェット旅客機DC-8型機を導入するにあたり、新しいブランドマークを策定することになりました。鶴をモチーフにしつつ「ジェット時代に相応しい現代的なスピード感を持ちつつも、“日本”を想起できる伝統的な面も盛り込む」デザインを検討しました。1959年2月、日米合同のデザイン会議でBCGの代表は「ブランドマーク/社章は外国人旅客から見た、注目度、識別度、認識度などの評価基準で決められる」と、日本航空や日本にとって利益になるものにすべきだと主張[3]。美しさを追求しようとしていた日本側スタッフは驚いたそうです。
会議後、好評だった鶴の家紋を元にアートディレクターの宮桐四郎がデザインし、日系2世のデザイナー、ヒサシ・タニが仕上げました。こうして1959年8月、初代”鶴丸”がブランドマークとして誕生したのです。

[1]中野嘉子(2015)「空飛ぶマダム・バタフライ ~JAL創業時のおもてなしと日本へのまなざし」東京大学東洋学研究センター『アジア研究情報Gateway』2015年7月21日付. <https://ricas.ioc.u-tokyo.ac.jp/asj/html/066.html>
[2]稲垣邦康(2021)「JALのブランドマークはなぜ“鶴”なのか?」『GQ』2021年1月6日付<https://www.gqjapan.jp/lifestyle/article/20210106-jal-tsurumaru>
[3]村松謙二(2012)「ブランドマークの60年」JALカード会員誌『AGORA』January&February 2012.pp.86-91.<https://www.jal.co.jp/jalcard/service/img/agora/brand.pdf>
経営統合、経営危機、そして再生
2002年、JALはJAS(日本エアシステム)と経営統合。ロゴは「JAL」の文字が中心になり、尾翼に”鶴丸”が描かれた機体は順次姿を消します。2008年5月30日、国際線で1機だけ残っていた機体が成田―厦門線で最後の就航を終え、セレモニーが行われました。

しかしこの年9月、リーマン・ショックが起きます。国内の赤字路線や高コスト体質なども重なり、日航は経営危機に陥りました。グループ2社を含む負債総額は2兆3222億円。2010年1月19日に会社更生法適用を申請し、金融を除くと日本では過去最大規模の破たんになりました[4]。
稲盛和夫を会長に迎え、経営再建に取り組む中で新しいロゴマーク制定も始まります。「創業当時の精神に立ち返り」「未知の領域に足を踏み出して果敢に挑戦していく決意」として新しい”鶴丸”デザインが始まりました[3]。初代と比べ翼の切れ込みをより大きくして力強さを、鶴の頭部を鋭くして前進を、くちばしを少し上向きにして希望などを表しているそうです。

[4]上野英治郎「日航が会社更生法申請:社債・株式や今後の手続きは-Q&A」『ブルームバーグ』2010年1月19日付<https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2010-01-19/KWHLNV1A74E901>
SNS投稿・広報への応用|企業ロゴと信頼から考える広報ネタ
「ブランドロゴ」は、ただのマークではありません。信頼、歴史、再出発など、企業活動の象徴です。
TwitterがXになり、ロゴが変わった時も多くのユーザーが嘆き、”青い鳥”との別れを惜しみました。ロゴは自社だけのものではないことを示す好例です。
https://togetter.com/li/2196590
▶️ 5月30日のSNSネタ案
🛫 あなたの会社のロゴの誕生秘話を紹介
- 新旧ロゴを並べ、変わったもの・変わらなかった点を紹介
- 社名・ロゴに込めた思いを紹介
- ブランド再構築時に社内から上がった意見を投稿
- デザイナーやアートディラクターとの議論の一部を紹介
UNICLAからのアドバイス(投稿を考える際のヒント)
SNSマネージャー養成講座【公式】さんは、こんなふうに反応してくれました。
- 「ロゴや社名に込めたストーリー」は、他社の広報や記者にとってもヒントになる
- 「写真1枚+文章3行」でも良いので、ロゴに込めた感情を伝える
- ブランドの過去と現在をつなげる投稿は、エンゲージメントが高くなる傾向
5月30日に限らず、自社の創立記念日や再出発の日などふさわしい日に発信しましょう。ぜひ試してください。
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