文を書く際、会話と同じように「思いついた順」に並べていませんか?
また「英語や中国語などと違い、日本語は語順がメチャクチャでも通じる」などと思い込んでいませんか?
SNSで話題になった試験問題をもとに、ご自身の実力を試してみてください。読み手に伝わる文を書きたいなら、適切な語順を意識しましょう。
解釈の上で誤解を招かない文
Twitter上で少し盛り上がった試験問題です。
これ、どこかで拾ったどこかの学校の試験問題らしいんだが、とっても良い問題だと感動すら覚える。作った人賢いなと。
— 𝕜𝕒𝕤𝕜𝕪 (@kasky90667020) December 8, 2022
大人でもわからない人案外それなりにいるみたいなんだが、これ理解できない人は他人への説明とか教えるという行為苦手そう。ぜひ子供にもやらせてみてどうぞ💁🏻♂️ pic.twitter.com/vUh8Nf3eNk
(設問)「叔父が海外に行く」「私は父と見送りに行った」「急いで見送りに行った」という内容を一文で表したとき、解釈をする上で誤解の生じないものはどれか。
(ア)父と私は急いで海外に行く叔父を見送りに行った。
(イ)父と私は海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
(ウ)私は父と海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
(エ)私は父と急いで海外に行く叔父を見送りに行った。
設問の指示に「一文で表したとき」「解釈をする上で誤解の生じないもの」とあるのをよく考えて選んでください。
誤解が生じるかどうか検討する
(ア)父と私は急いで海外に行く叔父を見送りに行った。
→急いで海外に行く叔父?
■誤解を招く要因
「急いで」が、修飾する語句「見送りに行った」から離れている。
(誤解を防ぐ読点)父と私は急いで、海外に行く叔父を見送りに行った。
(ウ)私は父と海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
→父と海外に行く叔父?
■誤解を招く要因
「私は」が文頭に出ると文全体の主題となり、「父と」が「海外に行く叔父」に結びついてしまう。
(誤読を防ぐ読点)私は父と、海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
(エ)私は父と急いで海外に行く叔父を見送りに行った。
→父と急いで海外に行く叔父?
■誤解を招く要因
(ア)(ウ)に示した要因が二つとも含まれている。
(誤解を防ぐ読点)私は父と急いで、海外に行く叔父を見送りに行った。
(イ)父と私は海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
「急いで見送りに行った」のは「父と私」、「海外に行く」のは「叔父」であり、それ以外の解釈は生じません。
正解は(イ)です。
読点でひとまず誤解は防げるが…
ここまでは試験問題の解説です。設問では一文で表すことを条件にしていました。実際の編集では、文を切ったり、語順を入れ替えたり、読点を効果的に使ったりしてもっと違う書き方ができます。
冒頭のツイートに対し、(イ)が正解だとしたうえで
(オ)父と私は、海外に行く叔父を、急いで見送りに行った。
などとした方が読みやすいとコメントをつけている方もいらっしゃいました。
果たしてそうでしょうか?
作文の本では、誤読されないように読点を打ちましょうと説くことが多いです。読点の打ち方は書き手の個性でもあります。
ただ、読点のいらない文を書けるようになるのが望ましいと私は考えています。その上で、書き手の意図を最大限に伝えるために読点を効果的に使うのが目標です。
やたらに読点を打つと読み手の思考を中断させ、 書き手の意図が何なのかわからなくなるからです。
読点を減らす最も良い点は文字数が減ることです。
日本語は「SOV型」の言語
英語学習の影響なのか、日本語でも主語(「〜は/が」など)を文の初めに置かなければいけないと思っている人も多いようです。他言語との比較で、日本語は「SOV型」(主語-目的語-動詞の順)の言語グループに分類されています。
しかし冒頭の試験問題のように、動詞以外は語順を入れ替えてもある程度意味が通じます(極端に言えば、動詞以外はなくてもいいとする説もあります)。
だからこそ試験問題になったわけですよね。普段は語順を気にしていないけど、文によっては誤解を招いてしまうから本当は気にしなくちゃいけないということで。
例えば、
(イ)父と私は海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
という文は、
このように入れ替えることもできますし、むしろこの方がわかりやすいと言えます。
こちらは本多勝一『日本語の作文技術』(朝日文庫)で詳しく解説されています。修飾語句(補語)は長い順から並べるとわかりやすくなる法則です。
父と私は(だれが行った)
海外に行く叔父を見送りに(何しに行った)
急いで(どんなふうに行った)
上の三つはいずれも術語「行った」を補足する部分(補語)です。長い順に並べると(カ)のようになるというわけです。
主語も「補語」と考える発想はなかったな。
「行った」を省いたら、結局どうなったかわからなくなってしまいます。でも「父と私は」を省いて「海外に行く叔父を急いで見送りに行った」は通じますよね。
読点で書き手の意思を示す
さて本題です。書き手の意図に応じて読点を打つにはどうしたらいいのか。上述の『日本語の作文技術』では、読点の打ち方の法則の一つとして「修飾語句を長い順に並べる法則から逸脱する場合に打つ」と提唱しています。
「逸脱」は、書き手の意思を強調したい時に現れます。
例えば
(キ)急いで、父と私は海外に行く叔父を見送りに行った。
こちらは「急いでいた」ことが強調されます。
(ク)父と私は、海外に行く叔父を急いで見送りに行った。
この場合は「父と私」が強調されます。
特に意識していなかったけれど思い当たる、実践しているという方も多いのではないでしょうか。
意識していないというのが問題だということもできます。少なくとも私は、学校の国語で教えてもらった記憶がありません。英語の授業で「It is A that ~.」を「強調構文」と習った時、日本語でも語順を替えて強調するなあとぼんやり考えた記憶があります。今の国語はどうなのでしょうか。
語順はある程度自由、だけど書き言葉は注意
「日本語は語順がメチャクチャでも大丈夫」と説く人もいます。例えば英語で
My father and I hurried to see off my uncle who was going abroad.
とすべきところを
hurried to see off, my uncle, my father and I, was going abroad
などと言っても全く通じないけれど、
「見送りに行った、叔父を、海外に行く、父と私は、急いで」
と言ってもなんとなく通じる、などと説明されています。
しかし、日本語の語順がある程度自由なのは「を」「と」「は」「に」などの助詞のおかげで語句同士の関係がわかるからです。試しに助詞を除いて
「見送り、叔父、行った、父、私、海外、行く、急いで」
などと言ってみたらどうでしょう? やはり通じないのではないでしょうか。
そして、助詞の位置によっては冒頭の問題(ウ)(エ)のように誤解を生じさせる場合もあります。
話し言葉では「カタコトだ」「なんとなくわかる」で済むかもしれませんが、書き言葉の場合は語順にも気を配って書けるようになりましょう。